2032年の都市を描写する (1) 「社会」をとらえるということ

このブログは、「2032年の世界を東京から考える」と冠しています。この連載では、そのタイトルにのっとって、2032年の都市がどのようになっているのか、どのようになるべきなのか、どのようなニーズが生まれ、どのようなビジネスチャンスがあるのか、そういったことを、やや抽象的な見地からではありますが、描写していきたいと思います。

 

どんな物語でも前置きがあります。落語なら「まくら」があり、映画ならオープニングロールがあり、オペラには序曲があります。その顰に倣って、連載を始めるイントロダクションとして、そもそも「都市を描写する」とはどういうことなのか、考えてみたいと思います。

 

・「社会」を捉える思想の登場 サン=シモン

時は1760年、フランスのパリ。ある高位な貴族の家に生まれた、アンリ・ド・サン=シモン Henri de Saint Simon という人物から話を始めましょう。彼は西洋近代の思想史を語る上で、欠かすことのできない人物です。

時代はいわゆる産業革命を経て、工業化と都市化が急激に進みつつある頃。学問の世界でも、バターフィールドがいうような「科学革命」期、つまり17世紀のデカルトやガリレオ・ガリレイの時代、18世紀初頭にかけてのニュートンの時代を経て、自然学、自然科学というものが基盤を築いだ時代でありました。

サン=シモンは、アメリカ独立戦争(1775-1783)への参加、パナマ運河計画の構想、フランス革命期に幽閉される(1794年に解放)など激動の時代の中で様々な経験をし、1825年に没します。その波乱に満ちた人生の中で、彼は社会がどうあるべきか、人々はどう生きるべきかを深く考察します。

そこで彼が行き当たったのは、そもそも「社会」というわけのわからないものを、どうやって捉えることができるのか? どうやって客観的に分析することができるのか? という問題です。

フランス革命は従来のあらゆる制度や価値観を解体したため、新たな社会秩序が必要とされていました。単に分析するだけでなく、社会をどうすべきか、どうすればこの混乱の時代を乗り越えることができるのか、ということを提示することが求められていたのです。

しかしながら、それは簡単なことではありませんでした。答えのない問いであることはもちろん、そもそも答えに向かうための方法論すら、定まっていなかったのです。

当時、自然学や生理学、今でいう自然科学や生命科学がいわゆる実証科学的な学問とされていましたが、他方で人間集団、社会全体を取り扱うような人文系の学問、哲学や神学はそのような実証科学的学問の範疇から外れていました。

サン=シモンは考えました。どのようにしたら、この社会を実証的に、科学的に捉え、客観的に分析することができるのか。

そこでサン=シモンが提示したのが、「社会生理学 La physiologie sociale」という概念でした。彼は新しい学問的方法論として、既存の実証科学的方法と社会というものを融合させたのです。彼は、社会を「生理学」的に捉えることができるのではないか、社会全体を一つの有機的機構 une véritable machine organisée によって活動する有機体 les corps organisés として科学的に分析することができるのではないか、と考えたのです。

 

・社会は作ることができる、という発想

このアイディアを引き継いだのが、1817年からサン=シモンと交友のあったオーギュスト・コント Auguste Comteでした。「社会学 la sociologie」の創始者として知られるコントは、まさにサン=シモンの「社会生理学」の発想を引き継いで、実証科学としての「社会学」を創出したのです。

 

コントが「社会学」という概念を提示した19世紀前半には、様々な「社会」を創出する試みが行われました。

例えば、イギリスのロバート・オーウェン。この記事のトップ画像はロバート・オーウェンの建設したニュー・ラナークの建物を撮影したものです。あるいは、フランスのシャルル・フーリエ。この時代になると、人々は「社会」は建設可能なものであると考えるようになります。

先ほどサン=シモンがアメリカ独立戦争へ参加したことに触れましたが、独立後のアメリカには広大な未開発の土地があり、実際にそこで新社会を建設するニーズがあったことも影響しています。

次の記事では、このような「社会」を創造するという発想が、様々な新社会を建設するという運動へと結びつき、19世紀を超えて20世紀へと続いていく流れを紹介します。

そして、高度成長期の日本もその流れの中で重要な役割を果たすことになります。

 

2032年は遠いようですが、このような史的文脈に沿って考えれば、案外に想定可能なものとなります。

次回投稿は8月末を予定しています。乞うご期待。

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