2032年の都市を描写する (2) 新社会を構想する試み

先日、スコットランドに行ってきました。

黄色と青のスコットレイル・カラーに彩られているアルストム製の電車は、始発のグラスゴー・セントラル駅を定刻に発車しました。スコットレイルはオランダのアベリオによって運営され、アルストムはフランスの車両メーカーです。日本と違って、イギリスの鉄道は国際色が豊かですね。

車内は空いていて、人々は控えめに座っています。東へ向かう電車は、軽快に走ります。ウィショウを過ぎると、車窓には広々とした平原、そしてそこに悠々と暮らす羊たち。

カールークを越えてしばらく走った列車は、速度を落としてポイントを超え、急な右カーブを抜けて速度を落とします。

行き止まりの手前で列車が停まると、終点のラナークです。ここまで乗ってきたわずかな乗客が、小さな街へ三々五々に散っていきます。

僕らは流しのタクシーを捕まえて、5分ほど川へ向かって下っていったところにある街を目指しました。

閑静な住宅街を抜け、石塀の切れ目を右に曲がると、森の中を下っていくつづら折りの道が続いています。

坂を下りて森を抜けると、突如として煉瓦造り3階建ての建築物が、川沿いに幾重にも建てられている場所に到着します。

ここが、ニュー・ラナークと呼ばれる場所です。

・19世紀前半の理想コミュニティ

ロバート・オーウェン Robert Owen(1771-1858)は、ウェールズ生まれの実業家です。彼は、水利を生かして建設されたニュー・ラナーク New Lanark の紡績工場周辺を開発し、労働者の住居、幼稚園、コープ(日本でいう生協)の販売所などを建設しました。

New Lanark buildings 2009.jpg
By mrpbpsNew Lanark & River, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7405860

オーウェンは、ニュー・ラナークでの紡績業の生産性向上、大都市グラスゴーから離れた土地での十分な労働力確保、労働者の待遇改善を目指して、幼稚園や協同組合などを取り入れた新たなコミュニティ建設に取り組みました。人々の出産から死までの生活と、生産から消費までを一貫してデザインした都市作りの先例です。

 

ニュー・ラナークの試みの後、オーウェンはアメリカのインディアナ州にニュー・ハーモニー New Harmony というより大きな都市計画を立案し、その実現に取り組みました。今回のトップ画像は、オーウェンの描いたニュー・ハーモニーの意匠です。

 

・フランスからのムーブメント

都市ではありませんが、農業を基本としたコミュニティによる社会運営を提唱したシャルル・フーリエ Charles Fourier(1772-1837)にも触れておきましょう。

彼は新しい社会システムとしてファランジュの形成を提唱し、具体的には1620人あるいは1800人からなる新社会「ファランステールPhalanstère」をデザインしています。

Phalanstère.jpg
Par Victor Considérant — Description du phalanstère et considérations sociales sur l’architectonique, Domaine public, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7761334

フーリエのこの構想は、アルバート・ブリスベンの著作やホラス・グリーリーの支援によってアメリカで試みられ、北部や中西部で一時期30ほどのフーリエ主義的なコミュニティが形成されたといいます。

また、アンドレ・ゴダン Jean-Baptiste André Godin のファミリステール Familistère にも影響を与えました。

さらに、世紀が変わって20世紀に入ってからル・コルビジェに影響を与え、Unité d’habitationという建築物が建てられています。

Unité d'Habitation de Marseille 2.JPG
By AnapuigOwn work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26281620

 

フーリエの思想の面白さは、どちらかというと『四運動の理論』で展開されている「情念引力」に基づく社会制度の構築にあり、ファランステールのアイディアはそこから引き出された結果なのですが、この辺りを論じ始めると日が暮れてしまうので、別の機会に譲ります。

とにかく、19世紀前半にこのような新社会−−実質は複合住宅や工場、商業地を組み合わせた小規模集落−−の試みが、イギリスのみならず大陸ヨーロッパや新大陸アメリカで様々に行われていたということを、イメージすることができるのではないでしょうか。

次回は、社会構想とはやや異なる文脈で登場する19世紀後半の「都市計画」や、20世紀に入ってさらに高度化する新社会についておしゃべりしたいと思います。それらが混じり合って20世紀後半のメタボリズム建築、そしてスマートシティ構想へと変化していくのです。

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