地域間連系線の利用ルールと長期固定電源

前回の記事でちらっと触れた「間接オークション」について、本項で整理してみようと思います。

 

・議論の背景

再生可能エネルギーの大量導入により、北海道電力管内では再生可能エネルギーが一つの電力管内全体の需要以上に導入されるような状況が生まれました(資源エネルギー庁「北海道における大規模太陽光発電の接続についての対応」2013.4.17)。そこで、余剰になった電力を東北・東京などの大規模需地まで送電するニーズが強まりました。また、震災後の原発停止により関西電力管内で電力不足に陥るなど、周波数の違いを超えた東日本側と西日本側との相互融通の必要性も再認識されました。

ある電力会社の管内から別の電力会社の管内へ送電するためには、「地域間連系線」と呼ばれる電線を必ず利用することになります。あちこちに張り巡らされている送電線ですが、別の電力管内とつながっている線はこの地域連携線のみなのです。単に、電力会社が違うからという理由だけではありません。そこには電気工学的な事情もあります。例えば、北海道と本州を結ぶ北海道・本州間連系設備、通称「北本連系」は、海底ケーブルによって結ばれていますが、長距離の海底ケーブルは送電効率の観点から直流での送電となっています(参考:パワーアカデミー「電源開発・北本連系設備を訪問しました」)。それゆえ、北海道と本州の両送電端で交流から直流へ、直流からまた交流へ、変換しなくてはいけません。ちなみに、本州と九州を結ぶ関門連系線は架空線なのでこの必要がありません。

また周知の通り、東日本と西日本では周波数が違いますから、そこを結ぶ連携線は周波数変換設備で50Hzと60Hzを交互に変換しています。そこを通らずに電力を他電力管内に送電するのは周波数が異なるため基本的にはできません。JR東海は、交流電化の東海道新幹線を60Hzの西日本から50Hzの東京まで乗り入れるために、50Hzの東電管内エリアに周波数変電所をいくつも設置し、き電線に60Hzの電気を通しています。ちなみに在来線は直流電化なので、周波数の違いは関係ありません。また、北陸新幹線は周波数切り替えセクションを軽井沢駅(東電50Hz)と佐久平駅(中部電60Hz)の間、上越妙高駅と糸魚川駅(東北電50Hz)の間、糸魚川駅と黒部宇奈月温泉駅(北陸電60Hz)の間の3ヶ所に設け、新幹線上で周波数を切り替えています。

HVDC Hokkaido-Honshu FurukawaCableHead.jpg
特徴的な形状の古川ケーブルヘッド(北海道函館市)。ここから本州へ送電される By Swirliehead, GFDL-no-disclaimers, Link

 

・議論の推移

さて、このような背景からの当然の帰結として、連系線を強化しようという話が上がってきます。元をたどれば震災後の2011年10月、国家戦略会議として「エネルギー・環境会議」が開催され、第二回の配布資料「「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理(案) 」の中ですでに示されている論点です。それが資源エネルギー庁の「基本問題委員会」に引き継がれ、第7回委員会で示された「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」p.23に明記されました。そこで「地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会」が設置されましたが、この研究会は連系線増強の必要性を訴えた「中間報告書」(2012.4)を発表して短期間で活動を終えました。

ここまでは単に線を増強しようという方向での議論だけだったのですが、2014年9月になって、第4回新エネルギー小委員会で配布されたエネ庁による「資料1 再生可能エネルギーの導入拡大に向けた電力系統に関する現状の取組・ルールについて」のp.12以下で「地域間連系線の運用ルール等の現状」が整理されています。新エネ小委員会でそれから1年間あまり議論が続けられ、2015年9月に「新エネルギー小委員会におけるこれまでの議論の整理」が公開されました。そこで連系線の利用のあり方についても焦点となっており、「市場メカニズム により連系線を使い切れるような制度設計を目指すべき」(p.23)と提言されています。つまり、連系線の増強だけでなく、現状の連系線を制度的にもっと活用できるのではないかという発想が強まってきたのです。さらに再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会の「報告書」(2016.2)でも「地域間連系線の有効活用のため、現在の連系線の利用計画等の運用ルールを見直すべきではないかとの指摘」がありました。それらの議論を背景に、2016年5月の第6回電力政策小委員会資料6-1 地域間連系線利用ルールの充実に向けて」で「現行の連系線利用上の課題について……連系線利用ルールの見直しも含めた検討」が提起されます。並行して4月〜6月に電力広域的運営推進機関(OCCTO、ESCJを引き継いだ団体)で勉強会が持たれ、論点整理がなされた「中間とりまとめ」がまとめられました。その結果に基づいて、地域間連系線の利用ルール等に関する検討会が立ち上がりました。

 

・従来の連系線利用ルール

ここから、連系線の利用ルールについて整理したいと思います。詳細はOCCTOの第1回地域間連系線の利用ルール等に関する検討会「資料5 地域間連系線利用ルール等に関する検討会 (連系線の送電容量割当て方式の概要)」をご覧ください。

従来の連系線利用ルールは、「先着優先」です。「先着優先」で容量を埋めていって、それでも余った容量は「スポット市場」での地域間電力売買の枠として使えます。

「先着優先」というのは、2日先から10年先まで、連系線の利用を予約しておくことができるシステムがあるので、その予約順で連系線が使えますよ、というルールです。再エネが普及したり、原発が全停止するまでは、連系線をいっぱいまで利用するような状況が生じなかったので、これで問題なかったわけです。経済学の言葉で言えば、「非排除性」と「非競争性」の有する公共財だったんですね。誰でも使おうと思えば使えるし、その順番がどうであれ価格やコストに影響があるわけではなかったのです。

そういうわけで、昔は「先着優先」でも容量に余りが出ていました。その余りの部分は、「スポット市場(1日前市場)」で他地域との電力売買をする場合に使われていました。「スポット市場」は、明日の30分毎の電力を調達するための市場です。電気は急に足りなくなると困りますので、数年先、数ヶ月先、数週間先、数時間先・・・と細かく需要の予測を立てて、その供給をあらかじめ計画しておきます。基本的には、数週間前には大体の予測が立っていますが、急に明日が猛暑日になったり、突然発電所が止まってしまったりすると、この「スポット市場」で電気を買ってきて明日の分の電気を調達するのです。スポット市場では誰でもどこからでも買ってこれるので、例えば東京に電力供給しているPPSが北海道の安い電気を買うこともできるし、大阪の一般電力小売りが九州から電気を買ってくることもできます。そうした時に流れる電力が地域をまたぐため、連系線を使うことになります。

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第1回地域間連系線の利用ルール等に関する検討会「資料5 地域間連系線利用ルール等に関する検討会 (連系線の送電容量割当て方式の概要)」p.2

 

・従来ルールの問題点

さて、ざっと従来の制度を説明しましたが、この制度自体に内在する欠陥が何かある、というわけではありません。状況が変わってきたのは連系線が再エネの導入や原発を代替する火力発電の電気で満杯になってきてからです。この状況を連系線の混雑と呼びます。連系線が混雑すると、「市場分断処理」が行われます。この分断処理というのは、端的に言えば連系線をまたぐ「スポット市場」の取引をキャンセルする処理です。JPEXの連携線空き容量情報から、今日の連携線の空き状況を見てみてください。おそらく、どこかで連携線の容量が逼迫していると思います。

連系線が混雑すると、公共財であったはずの連系線は希少性をもち、皆で競争して連系線の空き容量を手に入れようとします。しかし、ルールの方は10年先までの先着順で、後から入ってきた人にとっては公平に競争できるようになっていません。そこで不満を持つ事業者が出てきました。

その一つは特定規模電気事業者(PPS)、いわゆる新電力です。PPSが安い電気を隣の地域から「スポット市場」で調達しようと思っても、「市場分断処理」のために隣の地域から買うことができず、自社エリア内にある高い電気を買わされることになります。たまにそのような状況が生まれるというのではありません。本州側から北海道の電気を買おうと思えば2回に1回は、東日本側から西日本側の電気を買おうと思えば4回に3回は、「市場分断処理」をされてしまいます(2015/7~2016/6実績、OCCTO「電力広域的運営推進機関の発議による計画策定 プロセスの検討開始要件のうち、広域的取引の 環境整備に関する要件への適否の状況について [2016年度第2四半期結果まとめ]」2016.10)。なぜ分断されているのかと見てみれば、連系線の容量の80%を先着の人が使っている。小売り全面自由化に伴って新たに参入してきた事業者は、既存の事業者にすでに10年先まで連系線を押さえられていて、自分たちは使えないのだとわかる。これは既得権益だということで、問題視されているわけです。PPSがJPEXを通じた調達を拡大し、連系線活用ニーズも並行して積み上がっていることがその問題に拍車をかけています。

電力取引監視等委員会 第4回 制度設計専門会合「資料8 卸電力市場の活性化(自主的取組・競争状態のモニタリング報告)について」p.44

もう一つ、不満を持っているのが再生可能エネルギーの発電所を有する独立系発電事業者(IPP)です。現在、先着で連系線の枠を押さえている一般電気事業者は、その枠のほとんどを火力・水力・原子力で使っています(第4回広域系統整備委員会「資料1 東北東京間連系線に係わる計画策定プロセスについて」p.15)。先着枠での取引は相対契約が多いため、もし再エネ優遇系のPPSが先着枠を押さえてくれれば、再エネIPPがそこと相対契約を結んで自社電力を優先的に流すことができるわけです。あるいは、そもそも先着枠がなければ、PPSがJPEXを通じて連系線を介した取引を拡大することができるので、新規参入者のため相対契約先をエリア外に見つけにくい再エネIPPにも機会が拡大すると考えられています。

 

・間接オークション

そもそも「先着優先」の制度は、何もPPSや再エネIPPに嫌がらせをしたかったわけでもなんでもなく、単に実務上の手続きが登録順で割り当てる形だったので自然に「先着優先」となったものです。それが、前述の通り外的環境の変化でそぐわなくなってきた。そこで導入されようとしているのが「間接オークション」のシステムです。

「間接オークション」は、「先着優先」の制度を撤廃し、全ての連系線容量をJPEXの取引で約定した取引全てに割り当てるというルールです。「間接」の意味は、連系線の容量の使用権をオークションするのではなく、卸電力をオークションし、その結果で連系線容量を割り当てるため、間接的に連系線の使用権を得られる、ということからきています。加えて、もしオークションで容量の枠をオーバーしたら全ての取引を按分抑制するという方向で議論が進んでいます。これにより、連系線を介した取引を望む事業者全てが連系線を利用することができ、さらに連系線が混雑した場合は皆でその不足をプロラタ(比例配分)で痛み分けすることができます。「間接オークション」の導入を通じて、連系線が誰にも受け入れられる平等で公平公正な制度になるのではないかと期待されています。

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第1回地域間連系線の利用ルール等に関する検討会「資料5 地域間連系線利用ルール等に関する検討会 (連系線の送電容量割当て方式の概要)」p.8

 

・長期固定電源の扱い

一見、全ての問題を解決するように思える間接オークションのルールですが、いくつか問題点があります。詳しくはOCCTOの第5回 地域間連系線の利用ルール等に関する検討会「間接オークション導入に伴う詳細設計について1」及び第6回「間接オークション導入に伴う詳細設計について2」をご覧ください。本稿では、「長期固定電源」の論点だけ取り上げたいと思います。

「長期固定電源」とは、「原子力、水力(揚水式を除く。)又は地熱電源」と想定されています(OCCTO送配電等業務指針第210条2)。なぜ「長期固定電源」を取り上げるかというと、これらの電源を有しているIPP等の事業者が、実質的に間接オークションで大きな不利益を被ると考えられるからです。長期固定電源事業者は先着優先ルールのもと、10年先まで連系線を押さえ、相対契約で販売価格を担保した上で電源の稼働を計画しているわけです(第4回広域系統整備委員会「資料1 東北東京間連系線に係わる計画策定プロセスについて」p.15)。発電所建設や管理点検など大規模な投資、天然ガスやウランなど長期プロセスの仕入れ、一回稼働すればすぐには停止できないなど、長期固定電源は安価で大容量発電を行う反面で時間的な冗長性を必要とします。そこで、相対契約と10年先までの連携線予約により変動リスクを回避したわけです。ソフトバンクの孫社長が率いる自然エネルギー財団のレポート(「自然エネルギーの 導入拡大に向けた系統運用 ―日本と欧州の比較から―」pp.5-13)が冒頭から連系線の現行制度を批判的に記述しているのは、純粋な制度論というよりも、大規模再エネ発電所で長期固定電源を置き換えたいという明確な意図があるからでしょう。間接オークションの導入自体は、先着優先制度に比べて再エネにとって有利となるというわけではありません。しかし、先着優先制度が撤廃されて先着優先枠を有していない新規事業者の取引参入が活発となれば、相対契約で抑えられている枠が解放されるわけですから、あらゆる電源にチャンスが巡ってきます。

しかし、そうなると「長期固定電源」は困難な状況に立たされます。以前は10年先までの連系線を介した販売計画を立てていたものが、急に競争的な環境に追い込まれるわけです。当然反発というか懸念があるわけで、第2回 地域間連系線の利用ルール等に関する検討会でも「私契約について」という論点で相対契約の取り扱いについて議論されました。ここでは、「差金決済契約」によってむしろ収益向上するという見方が示され、「中間とりまとめ」での記述も訂正されました。詳細については「私契約について」をご参照ください。また、PJMのやり方を参照しながらFTRの導入なども議論されていますが、このあたりは金融的な話でもあるのでまた項を変えて論じたいと思います。端的に言えば、長期の「差金決済契約」で売買の金額と期間を固定し、売り手の電源事業者はスポット市場へ成行もしくは0円で売り入札を立て、買い手はそれを市場価格で決済し、「差金決済契約」に基づく金額との差額を後で決済するというやり方を導入して、実質的な相対契約は継続することが可能だということです。

 

・今後の展望

「差金決済契約」で長期固定電源の売り先を確保できるとは言っても、先着優先制度がなくなることで他電源選択の心理的ハードルが下がることは必至です。短期的な技術革新を通じて新設の電源コストが下がれば、小売事業者がそちらを選択することは市場原理上当然の成り行きでしょう。長期間の差金決済契約が結べなければ、長期固定電源の事業モデルも危うくなります。電力の市場価格が長期固定電源の限界費用を常に割り込むような事態になれば、長期固定電源は逆ざやで電気を売り続けるか、投資回収する前に電源を手放すかという究極の選択を迫られてしまいます。もちろん現在は再生可能エネルギーのコストが非常に高く、FITの補助金で普及を下支えしている状況であるわけですが、ここ5年間で部材費・施工費等が半減してきており、(半導体からの安直な連想ではありますが)ムーアの法則が当てはまって、急激にコストが低減する可能性もあります。メリットオーダーの観点からは再エネと原子力が肩を並べ、ほかの電源が後に続いているような状況ですが、有史に残る悲劇的な事故を起こした日本では、今後の政策如何でこの順位も変わってくる可能性があります(メリットオーダーについては、DBJレポート「電力自由化後の火力発電投資 : メリットオーダー分析にみるリスクと課題」(2015.6)や第5回電力基本政策小委員会「資料6 容量メカニズムについて」(2016.3)をご参照ください)。いずれにせよ再エネがメリットオーダーで最前列に並ぶのは当然であり、それゆえベースロード電源を批判する論調や、調整火力を蓄電池やキャパシタに置き換える議論が活発になっているというわけです。

最終的には、長期固定電源+調整火力&揚水発電(集中電源、ランニングコスト大) vs 再エネ+蓄電池&DR(分散電源、ランニングコスト小)の戦いになると思われます。もちろん、長期固定電源+蓄電池もありえるとは思いますが、蓄電池容量に対して長期固定電源の規模が大きすぎ、現在は揚水発電が選好されているぐらいです。再エネ+調整火力は、CO2排出量の観点からも矛盾していますし、コスト的にも選択されないと思います。各地に再エネと蓄電池を置くか、数カ所に長期固定電源と調整火力を置くか、そういう選択です。

一般論で考えれば、当然に再エネ+蓄電池&DRの方が選好されます。しかし、そこで長期固定電源がなくなっていって、本当に大丈夫なのか?という根強い論点があります。「ベースロード電源」という括りで論じられることもあります。確かに、長期固定電源は常時発電し、一定の発電量を担保してくれる心強いものです。しかしながら、それは心強いというだけの意味しかありません。もし石炭が掘れる国であればずっと石炭を掘り続けられれば心強いものです。もし石油が湧く国であればずっと石油が湧き続けてくれると心強いでしょう。しかしながら、経済的合理性や技術革新に伴って石炭が石油に代替され、油田が原子力や再エネに代替されるというのが歴史の常です。再エネの電力を余らせ、抑制してまで長期固定電源を抱え込むという選択肢は、長期的に見てどれだけ社会的効用が高いのか。あるいは事業性があるのか疑問符がつきます。長期固定電源で管内全域のベースロードを担保するということでなく、蓄電池やデマンドレスポンス(DR)でより細かい地域ごとに需給を賄っていくことになるというのが、今後の流れではないかと思われます。あるいは逆に、超大規模高効率発電所ができて、規模の経済により長期固定電源でも超低コストが実現されるであるとか、絶対に永続的に一度も壊れない核融合発電所が完成するなど、そういうことも全くありえないとは言えません。その場合、日本では投資がつきにくいでしょうから、大規模需要地に強い送電設備で莫大な電力を垂れ流すことが可能な国から技術的なイノベーションが生まれることでしょう。ただ、現実的なここ数年〜十数年のスパンでは、蓄電池やDRを活用した、いわゆる仮想発電所(VPP)のような形が政策的な後押しの元、広がっていくと考えられます。発電所自体の資源リサイクルや、CO2排出抑制の視座なども加味しながら、今後の電力産業が発展していくものと思惟する次第です。

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