電力の品質とは何か

この先、調整力や予備力の話、デマンドレスポンスの話などを進めていきたいと思っていますが、その前段として、「電気の品質」という、やや工学的な話を確認し、電力系統がどのように維持されているかというところを押さえておきたいと思います。

参考資料として、第5回電気事業分科会における資料、横山明彦「電力系統の基本的要件と我が国の電力系統の特徴」(2003.10)を挙げておきます。では、始めます。

 

・当たり前の話、系統はオームの法則で成り立っている

電気は、ただ流せば良いというものではありません。常に必要な量に合わせた電流を流したり、電気を使う機械が壊れたりしないよう一定の品質を保ったり、停電を避けたりしなければいけません。そのためには、電圧と周波数を一定に保ち、必要な分ちょうどの電流を流さなくてはいけません。

需要によって変わる数値は、電気の流れる量です。電圧は一定値に決められていますから、需要(接続される負荷)が増えたり減ったりすれば、それに合わせて供給(発電所等の出力)も増やしたり減らしたりしなくてはいけません。昼と夜の差については、大きな火力発電所を昼だけ動かすなどして賄っています。さらに細かい需要の変化は、火力発電所の細かな制御に加え、各変電所にあるディーゼル発電機でこまめに調節し、電気が足りなくなったり、あるいは多すぎて設備に負担がかかったりしないようにします。

それでは、電流の上下や必要な電力量は、どのように判断しているのでしょうか。オームの法則がこの世界の基本です。オームの法則では、電流と電圧が比例し、抵抗がその係数となります。そして、系統のそれぞれのセクションでは、電圧が一意に決められています。なぜなら、抵抗値の増減に合わせて電流値を変えるときに、電圧が変化しないように調整することで、系統のどこの地点でも同じ電圧と必要な電流を得ることができるからです。抵抗の値、つまり需要家がいま使う電気の量は、電力会社がコントロールすることはできません。電圧は一定に決められているので、電圧値が下がってくれば「抵抗が増えたな」とわかり、「たくさん電流を流して電圧を上げよう」となります。逆に電圧値が上がってくれば「抵抗が減ってきたな」とわかり、「流す電流を減らして電圧を下げよう」となるわけです。当然のことのように思えますが、これが「電力網」を実現する最も重要なルールなのです。もし電圧が一定でなくても良いのなら、任意のタイミングで電流を流したり、負荷を増やしても電圧を加えないということが可能であり、回生ブレーキを使用する電車が走る鉄道のき電線の電圧はそれに近い運用がされています(それでも一定の範囲内の電圧変動に収まるよう設計されていますが)。

 

・電力品質は、電圧一定と周波数一定により保たれている

1)電圧調整の問題

一般的に、コンセントからの電気は100Vだと言われています。実際には、101V±6V、つまり95V〜107Vの間と決められています。

(電圧及び周波数の値)

第三十八条  法第二十六条第一項法第二十七条の二十六第一項 において準用する場合を含む。次項において同じ。)の経済産業省令で定める電圧の値は、その電気を供給する場所において次の表の上欄に掲げる標準電圧に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとする。

標準電圧 維持すべき値
百ボルト 百一ボルトの上下六ボルトを超えない値
二百ボルト 二百二ボルトの上下二十ボルトを超えない値

電気事業法施行規則より

従来は、変電所から107V程度で電気を送り出し、配電網の末端で95Vを割らないぐらいの電圧になるよう電気を送り出していました。需要が大きくなり(つまり系統に繋がれる負荷が増えて)電圧が下がってくれば、変電所からの出力を上げることで電圧を一定に保つことができます。需要が減ってくれば電圧上がるので、変電所からの出力を下げてあげるのです。末端が95Vを割らないように変電所のディーゼルで調節してあげれば、何ら問題はありませんでした。

しかし最近は、あちこちに100Vで電気を送り出してくる分散型電源があります。太陽光発電設備がその旗手です。太陽光発電設備は、需要がどうであろうと日が当たれば一定の電圧で電流を流してきます。そうすると、需要が変わらなくても電流値が増えて、そうするとオームの法則で電圧も上がってしまいます。これが末端の方で起こると、変電所から少し先の方では電圧が下がっていくので変電所からは107V近くで流さなくてはいけないけれども、末端では電圧が再び上がって107Vを超えてしまう、というような状況が生まれます。そうすると最悪の場合送電線が燃えたり変圧器が焼けたりしますので、そうならないように発電設備のパワコンが電圧をチェックし、電圧が105Vあたりを超えてくると自動抑制するように設定されています。実際は屋内配電の抵抗で受電点にたどり着く前に電圧降下(パワコン側は上昇)してしまうために抑制がかかるケースが多いようですが、配電系統自体の電圧上昇による抑制ももちろんあります。

【ケース1】

スクリーンショット 2017-02-13 午後5.44.40

配電系統の電圧上昇を原因とする抑制がかかる場合。配電系統末端で太陽光発電の逆潮流が増加すれば(フィーダ(A))、末端の発電者は抑制をかけなくてはいけない。(田邊隆之「配電系統の電圧変動抑制技術の開発について」電気設備学会誌、2011 年 8 月)

【ケース2】

denatuyokusei

屋内配線の電圧上昇による抑制がかかる場合。V1(パワコン出力電圧)が110Vでも、細いケーブルなどを使用することでR(電線の抵抗)が大きくなれば、V2(配電系統受電点の電圧)は105Vや100Vまでしかいかない。その場合V1を115Vや120Vに設定すればV2を107Vに近づけることができるが、パワコンは設定上限110V前後の場合が多く(田淵電機「系統電圧上昇による出力抑制について」)、配電系統に余裕があっても抑制がかかってしまうケースが少なくない。(エコ丸が教える太陽光発電まるわかり全国で多発する太陽光の電圧抑制の主原因はこれだ!/配線部分での電圧上昇」2017.2閲覧)

これは配電系統の例ですが、それより上位の系統でももちろん同様の問題があります。送電線は66kVや110kVなど一意の電圧が定められており、大きな上振れや下振れを起こすことが望ましくありません。それに、あまり大きな発電所であると、急激な出力に伴う電圧の変化に対応するための手段がありません。そのため、パワーコンディショナーによる出力抑制や、蓄電池などを使った出力変動対策が重要な方策として電力会社から打ち出されているのです。

 

2)周波数の問題

系統はほとんど交流ですから、オームの法則だけでなく周波数も問題になってきます。周波数は、インバーターを介していない交流発電機や交流電動機(モーター)などの動力にとって重要なポイントです。交流発電機・電動機は電極が入れ替わりながら発電あるいは回転するので、物理的に交流の電気を生み出し使用しています。例えば50Hzの入出力をする場合、交流発電機は1秒間に50回程度電極が反転するように回転させます。逆に交流電動機は、1秒間に50回弱電極が反転することで回転します。同期機と誘導機で色々違うのですが、その辺りは色々な説明Webサイトがあるのでそちらをご参照いただくとして、ここではその回転数が周波数に依存するという点が重要です。回転数が周波数に依存するため、周波数が大きく変化してしまったら回転数も大きく変えなくてはならないのです。

50Hzの系統に、50Hzの電気を流し込む火力発電所があった場合を考えます。何らかの理由で系統の周波数が45Hzに下がったとすると、そのまま50Hzの電気を流し込むと波が打ち消しあったり、重なり合うので、タイミングによって電圧が高くなったりゼロのままの時間が続いたりします。正弦波ではなくなるわけですね。これにより、交流電動機を使っている需要家の電動機は、回転子の電極が固定したり、回転速度と合わないタイミングで電極が反転したりするので、停止してしまいます。インバータでも入力の変動に伴って出力電流が不安定になり、インバータの出力側機器に負担がかかります。何より変電所の変圧器が磁束の変化などに伴い故障します。実際には、もしそんなことが起これば、火力発電所は物理的な回転数をすぐに45Hzの周波数に合わせることができないため緊急停止し、大規模な停電が起こるでしょう。このように、周波数が大きく変動すると発電、送配電、需要家機器の全てに問題が生じます。

周波数については、各電力会社の約款で「標準周波数」が定められています。偏差については明確に定めたものがありませんが、基本的には±0.2Hz以上の変動が起きないように調整することとされています。2003年に、ISEP関連団体が東京電力に問い合わせた時の資料によれば、「周波数偏差が0.2Hzを超えると、一部のお客さまから問い合 わせ等がある状況」(東京電力「電力会社における周波数調整と 会社間連系について」2003.9)という回答が返ってきています。

 

3)位相の問題

周波数の問題はこれだけではありません。交流の場合、プラスとマイナスを交互に出力しているわけですが、電圧と電流の波長がずれるということがあります。例えば電圧が実効値で100V、電流が実効値で300A、つまり30kWの電流が交流50Hzで流れている時であれば、1秒間に最大値の141Vに達するのが50回、-141Vに達するのが50回あるわけです。それと同じように電流も424Aと-424Aの間を50回行ったり来たりしています(実効値と最大値については「高校物理の部屋」などをみてください)。リアクタンスとなるものが何も繋がれていない状態であれば、基本的には電圧が141Vになった瞬間に電流も424Aになりますし、同様に-141Vになれば-424Aになります。しかし、電圧(電位差)は電気を流す力の大きさであり、電流は実際に電気(電子)の流れる量を示しています。ですから、電圧がググッと上がったからといって、すぐには電気が流れない場合があります。

電磁誘導を使った負荷を使うと、後述する理由により電圧より電流が遅れます。電磁誘導を使った負荷には、誘導電動機からIH調理器までいろいろあります。電磁誘導を使った負荷は、電磁誘導を生じるためにコイルを使いますが、コイルに電流が流れた瞬間には磁束が生まれます。磁束というのは、磁力で引きつける向きと強さを線の束で表したものですね。その磁束の変化によって、電流とは逆方向に電気を流そうとする力が生まれます。これを、電磁誘導で生まれた電気を流そうとする力(起電力)なので誘導起電力といいます。またその時、誘導起電力の大きさは、磁束の変化の大きさに比例します(ファラデーの法則。また、誘導起電力の向きが電流と逆方向になることは、レンツの法則と呼ばれます)。この現象を自己誘導と呼びます。

さて、交流の場合は電流値が変化し続けます。変化する波形は、今回の例であれば0に近いほど急で、上と下の頂点、424Aと-424Aに近いほど緩やかです。電流の大きさが変化すれば、磁束が変化します。磁束の変化が大きければ、誘導起電力も大きくなります。そうすると、電流が0をまたいで変化する時は、誘導起電力によって流れにくくなり、424Aに達するのが遅れます。

では、これを電圧と電流と誘導起電力の三つを組み合わせて考えてみましょう。いま電圧が-141Vから141Vに向かっているとします。電流もそれに合わせて-424Aから424Aに向かいますが、0Aに近づくにつれて磁束の変化に伴い誘導起電力が強くなってきますので、電圧よりも遅れて0Aに達します。電圧は0Vを通過して141Vへ向かいます。電流もそれを追いかけて424Aに向かいますが、電圧は先に141Vを通過して-141Vに向かい始めます。電流は電圧が減り始めてからも増加して424Aに到達します。・・・とこのように、電圧に対して電流の波長にずれが生じます。これを、位相ずれと呼びます。さらに、ずれている分の電力は仕事量に変換されないため日本語では無効電力(Reactive Power)と呼びます。また、電流が電圧の波長に対して遅れているので「遅れ電流」と呼ばれます。ずれの大きさは位相差といい、ある瞬間の断面の静止ベクトルの角度で示されます。遅れ電流の時の位相差のコサイン値を「遅れ力率」として%で表します。

スクリーンショット 2017-02-14 午後9.23.08

センスも線も無い部屋「交流電力」(2017.2閲覧)

コンデンサなどの容量性リアクタンスを生じるものは、コイルとは逆に電圧に対して電流が進みます。これも説明しようかと思ったのですが、ネット上には専門家がたくさんいるのに屋上屋を架すこともないので、適当に検索して確認してください。ロジックはともかく、上述の誘導性リアクタンスと逆のことが結果として現れ、「進み力率」が生じます。

重要なのはここからで、系統側は系統全体の位相差に合わせて有効電力と無効電力を供給しなくてはいけません。遅れ力率は電圧降下をもたらしますし、進み力率はフェランチ効果により送電路末端の受電端での電圧上昇を招きます。しかしこの辺りをブログの文章だけで説明するのは困難を感じてきました。とにかく、系統における位相差が大きくなれば電圧降下や電圧上昇を招き、1)で話したような理由からそれを回避するような処置が必要となる、ということをよくよく強調したいと思います。

 

・まとめ

電力の品質と呼ばれるものは、基本的には電圧を一定にすることと周波数を一定にすることにかかっています。電圧を一定にしなければ、需要家機器が破損したり、配電系統の損傷、末端での電力不足などが生じます。周波数が大きく変化すれば回転体を使った電力供給は全て停止しますし、同じく回転機を使った需要家機器も作動できなくなったり誤作動します。

気になる方は第二種電気工事士(電工二種)や第三種電気主任技術者(電験三種)を受験してみてください。また、公益社団法人日本電気技術者協会の「音声付き電気技術解説講座」には様々なわかりやすい解説が掲載されていますのでご活用ください。

この話を踏まえた上で、次回、予備力及び調整力についての話をしたいと思っています。

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